日本スプリント学会第32回大会 ごあいさつ
会長 あいさつ
山崎一彦
新型コロナウイルス蔓延のため、1年延期された東京オリンピックは、皆さんにとってどんなオリンピックだったでしょうか。東京オリンピックを目指したスプリンターたちを始め、それぞれの地域で活動するスプリンターたちも、この1年以上の間に様変わりした社会の中での競技活動を多大なる情熱の中で継続して来たのだろうとお察し致します。改めて私たちは、陸上競技が好き、スプリント走が好き、ということを再認識させられました。
7月から開催された東京オリンピックでは、最も期待された男子4×100mリレーは決勝でバトンが渡らなかったという事件が起こりました。悔やんでも悔やみきれませんが、次のパリオリンピックでは、花の都で大輪の花を咲かせることができると信じています。2021年シーズンの日本スプリント界を見ると、オリンピックイヤーにふさわしい多くの成果を上げています。5年前には想像できなかった女子4×100mリレーの東京オリンピック出場、男子4×400mリレーでは、惜しくも決勝進出を逃したものの、東京オリンピックの予選で25年前の記録に並ぶ日本タイ記録を樹立。そして男子100mでは、6月6日に開催された布施スプリントで、2019年にサニブラウン・アブデル・ハキーム選手が樹立した9秒97の日本記録を、山縣亮太選手が9秒95に短縮しました。頻繁に日本記録が更新されているということは、「スプリント革命は継続している」ことを示す事象であると確信しております。
さて、今大会のテーマは、「スプリントのイノベーションを考える」としております。基調講演では、東京オリンピック陸上競技監督であり、前日本陸連強化委員長であります麻場一徳先生(山梨学院大学)から、「日本スプリント 東京オリンピックへの挑戦」と題して、東京イオリンピックまでの道のりを総括していただきます。シンポジウムでは、「山縣亮太選手 日本記録樹立までの過程とこれから」という題目で、日本記録樹立したご本人である山縣亮太選手(SEIKO)を始め、コーチの高野大樹先生(慶應義塾大学競走部コーチ)、データの解説をしてくださいます大沼勇人先生(関西福祉大学・日本陸連科学委員会)にご登壇いただくことになりました。また理論・実技編として、インターハイ総合優勝5回(男子3回、女子2回)の指導歴をお持ちになり、オリンピック選手(内藤真人氏)を輩出している北村肇先生(中京大中京高)にご登壇していただくという盛り沢山の内容となっております。これらの内容を多くの学会員および参加者にお伝えしたく、現地参加とオンライン同時配信でのハイブリット学会を予定しております。学会始まって以来の新しい試みへの挑戦にもご理解ください。
最後に、コロナ禍という厳しい状況にもかかわらず学会大会を快く受け入れていただきました宮崎県および宮崎市の関係者の皆様、学会大会運営委員長の串間敦郎先生をはじめ、学会大会開催に携わっていただきました関係各位、さらにはご協賛いただきました企業の皆様に改めて感謝申し上げます。
大会運営委員長 串間 敦郎
日本スプリント学会第32回大会が、神々のふるさと、天孫降臨伝承の地である宮崎で、11月27日、28日の2日間にわたり対面とオンラインのハイブリッドで開催されることになり、全国の皆様を心より歓迎いたします。本来は昨年の同時期に開催予定でありましたが、新型コロナウイルス感染症拡大のため、やむなく一年の延期をさせていただきました。会員の皆様には開催延期についてご理解をいただき、感謝に堪えません。
本学会大会のテーマは「スプリントのイノベーションを考える」です。1991年に開催された東京世界選手権をターニングポイントとして、日本スプリント界は大きな発展を遂げることができたと考えています。この大会では、前会長の高野進先生が400mにおいて世界レベルの大会ではロスオリンピックの吉岡隆徳選手以来、短距離種目で約60年ぶりの決勝進出を果たしました。また、日本陸連は大会開催にあたり、現在の活動にも繋がる「バイオメカクニクス研究班」を立ち上げ、全ての種目において当時の最先端の技術を駆使し、世界のトップ選手の技術を分析しました。なかでも100mで優勝したカール・ルイスらの世界トップ選手の技術と日本のスプリンターの技術を分析、比較し、キック動作の違い等を明らかにしたことで、後の指導者たちは、その研究成果をすぐさま指導に活かすことができました。その後のオリンピックや世界選手権においての多くの決勝進出、そしてメダル獲得につながっていった道程は、皆様ご存じの通りです。まさにこの大会は、日本国民に陸上競技の面白さを知ってもらい注目される機会となったと同時に、日本スプリント界のイノベーションの契機となる大会でもあったと思います。
近年のテクノロジーやICTの急速な進歩により、誰もが最新の情報を手に入れることが可能になり、迅速なパフォーマンスのフィードバックや、日常のトレーニングにおいて、繰り返しフォームの確認等ができるようになりました。また新しいトレーニング法やそれに関連したトレーニング機器の開発などもなされています。これらのことが集積されていったことがイノベーションを生みだし、日本のスプリントは世界と戦えるようになってきたと考えられます。今回、シンポジストとして、山縣亮太選手(SEIKO)、高野大樹コーチ、そして陸連科学委員会の大沼勇人先生(関西福祉大学)をお招きしました。100mの日本記録樹立までの道程を紐解いていただけるものと思います。また全国インターハイでの複数回の総合優勝をはじめ、多くの優勝者を輩出されている北村肇先生(中京大中京高校)に、ワークショップをお願いしており、選手育成に繋がる多くのノウハウやヒントをいただけると思っております。本学会大会が、皆様にとりまして、今後のご指導の参考となり、日本のスプリントの隆盛に繋がる多数の選手が輩出される一助になれば、幸甚に存じます。
学会大会へのご案内が、遅くなってしまいましたことをお詫び申し上げると共に、多くの皆様のご来場、ライブ配信へのご参加をお待ち申し上げます。